バタフライドアを採用した、トヨタ屈指の異端児「セラ」!至極真面目に作り込まれたコンパクトクーぺ、その魅力を紐解く

みなさん、こんにちは!今回は、トヨタが作ってきたクルマの中でも指折りの異端児、セラを取り上げます。「バブルの申し子」「形だけのデートカー」などと揶揄されることもあったセラですが、果たして本当に「形だけで中身のない」クルマだったのでしょうか?

筆者はとてもそうは思えません。なぜならトヨタ・セラは、あの空に向かって開くバタフライドアとガラス製ルーフを実現するために、あらゆる部分を丁寧に作り込み、それにも関わらず低価格を実現していたからです。製造終了から25年経った今、改めてその魅力を紐解いていきたいと思います。

セラのキモ、バタフライドア


出典:ウィキメディア

トヨタ・セラを見てみましょう。一見すると、ただの大人しいデザインのコンパクトな3ドアクーペですが、ハッチバックドアはほぼ全面ガラスで構成されています。ルーフまでガラス面が回り込んだバラフライドア(トヨタ自身はガルウイングドアと呼んでいました)は、斜め前に跳ね上げて開閉する仕組みで、ドアを開けた時の注目度と、普段の大人しいエクステリアとのギャップも魅力の一つと言えるでしょう。

このバタフライドアとハッチバックドアのおかげで、セラの車体上部はほとんどガラス面で構成され、「グラスキャノピー・グラストップ」と呼ばれる独特のスタイリングを実現していました。また、セラのバタフライドアのような、ガルウイングタイプのドアといった機構は、それこそ高額のスーパースポーツカーにしか採用されておらず、小型の安価なコンパクトクーぺに使われた例はほぼ皆無。しかも、ガルウイングタイプのドアが日本車で採用されたのは、セラが初めてでした。

ちなみに、ガルウイングドアと正確に呼べるのは、メルセデス・ベンツ・300SLのような、ルーフ部にヒンジがあってカモメの翼のように開く構造を指します。また、ランボルギーニ・カウンタックのように、ドア前部のヒンジから跳ね上げる構造のドアは、正確にはヒンジアップドアと呼びます。この記事では、トヨタ・セラのバタフライドアとあわせて、これらの機構を全部ひっくるめて「ガルウイングタイプ」のドアと表記しています。

「AXV-II」のデザインをほぼそのまま製品化


出典:ウィキメディア

まるでモーターショーに出品されたコンセプトカーがそのまま製品化されたような、そんな印象のトヨタ・セラ。その原型となったのが、1987年(昭和62年)の第27回東京モーターショーに出展された「AXV-II」です。「AXV-II」を見るとわかりますが、エクステリアデザインはセラとほとんど変わらず、原型の時点でスタイリングはほぼ完成していた様子が伺えます。

しかし、セラが実際に発売されたのは1990年3月のこと。市販化までに、実に2年半が費やされました。当時は1987年に日産・Be-1がヒットを飛ばし、それまで合理化一辺倒だった工業デザインに「レトロ・デザイン」という新しい価値観を与えた最初の例として注目を集めていた時期です。トヨタはしかし、その「レトロ・デザイン」の潮流には乗らず、独自の路線を切り開きます。レトロではなく、未来へ行こうとしたのです。

参考:トヨタ屈指の異端児「セラ」買取専門ページ!

トヨタ・セラは、グラスキャノピーの全周視界が生み出す「全天候型オープンカー」でした。サンルーフとは比較にならない開放感の、広々としたグラスエリア。また、純粋なオープンカーとは異なり、花粉や強風に悩まされることもありません。雨が降れば水滴が流れる様子を車内から眺め、夜になれば街中では美しい街灯が室内を彩り、自然の多い場所であれば星空すら仰げる。こんなクルマは、それまでの日本には存在しませんでした。

コスト制約の中、多くの専用品を採用


出典:ウィキメディア

トヨタ・セラのベースになったのは、当時のトヨタのボトムラインを支えていたスターレットでした。しかし、ベースになったとはいえ、ボディパネルは全て新しく作り直され、インテリアも専用の部品が多数投入されました。

セミバケットシートタイプのシートに、9時15分の位置でも10時10分の位置でも握りやすいステアリング。円をイメージしたメーターナセルとエアコン吹き出し口、そして各種スイッチ類。メーターの色はビビッドなイエロー。コストの制約からか、プラスチッキーな質感ではあったものの、「外から中が丸見えになる」ことにきちんと向き合ったデザインと言えるでしょう。また、アブウーファーを含む10スピーカーからなる「スーパーライブサウンドシステム」もオプションで設定されていました。

狭いながらも後部座席も用意され、車検証上の乗員定員は4名となっていました。全長×全幅×全高は、3,860×1,650×1,265mmと現行ヴィッツよりもコンパクトで、道路での取り回しは抜群です。広く開くハッチバックと後部座席も含めると、荷物の積載能力もそこそこ確保されています。何より、このサイズのコンパクトクーぺというのが現在ではなかなか見当たりませんよね。

まるで見た目の良さだけを追求したようなバタフライドアですが、実は意外な実用性も備えています。バタフライドアは斜め前に跳ね上げる構造のため、ドアの振り出しは横方向に43cmしかなく、狭い場所での駐車はむしろ大の得意。もっとも跳ね上げたドアの高さは約1.9mに達するので、現代のミニバンの全高とさほど変わらないとはいえ、天井の高さには気を使わないといけませんが…

トヨタが取り組んだ問題解決

トヨタ・セラの優れたポイントは、「スターレットの屋根を切ってバタフライドアを付けました。終わり!」ではなく、この構造を採用することによって生じた問題点をきちんと解消しようとしている点です。

セラのバタフライドアはガラスの面積が大きく、かなりの重量となってしまいました。ハッチバックなどで使われる通常のガスストラットは、夏や動きが軟らかくなり、冬は硬く動きが渋くなるなど、気温による作動感の変化が大きいという欠点があります。セラでは、重いバタフライドアの開閉をできるだけスムーズにかつ気温によって変化させないよう、温度補償ダンパーをもう一本追加して、季節による変動を最小限に抑えました。

また、上面がほとんどガラスという構造上、ベースになったスターレットよりも重心が高くなっていますが、走行安定性を確保するために、サスペンションのセッティングにも手を入れています。
リア周りのロールセンターを重点的に引き上げて、ロール角を減らす対策をするなど、きめ細かな変更が行われました。

室内は全面ガラスという構造上、どうしても暑くなります。そのため、より大きな車格のクルマに採用されているエアコンを採用。さらに、このクラスのクルマでは珍しくオートエアコンとするなど、快適な車内空調の確保に力を入れています。

エンジンに関しても、大量のガラスによる重量増に対応するため、スターレットの主力である1.3リッターエンジンではなく、より大型の1.5リッター直列4気筒DOHC(5E-FHE)を採用。ハイメカツインカムと呼ばれる狭角型DOHCを採用し、ロングストロークながらレッドゾーンは7,600回転からという、当時のトヨタの中では高回転・高出力型エンジンでした。

出力は110PS/6,400rpm、最大トルク13.5kgmで、890〜950kgの車重を走らせるには十分な性能を発揮。組み合わせられるトランスミッションは5速MTと4速ATで、5速MTはほとんど販売されず、現在は希少車となっています。また、メーカーオプションで4輪ABSが設定されていました。

セラが提示したクルマの持つ可能性

セラの総生産台数は、約1万6,800台。そのうち1,000台が海外に輸出されました。ユーザーにとって、日本で真夏に乗るには暑すぎたからなのか、はたまた周囲から奇異の目で見られるのに耐えられなかったからのか。月1,000台という販売目標をクリアすることなく、1994年12月に生産終了となります。後継車は登場することなく、4年の短い生産期間で、セラはひっそりと姿を消しました。

トヨタ・セラは、バタフライドアを採用しつつ、当時160万円代という価格を実現した、手を少し伸ばせば「夢」を買えるクルマでした。1993年に登場した約1億円の超弩級スーパースポーツカー、マクラーレン・F1に採用されていたのも同じくバタフライドア。筆者も、マクラーレンF1は無理でもセラなら…と思った記憶があります。

デザイン重視のクルマながら、各部の問題解決にきちんと取り組んだセラは、クルマのコンセプト、デザイン、パッケージにはまだまだ大きな可能性があることを示してくれた、エポックメイキングなクルマと言えるでしょう。国内の中古車市場でも数が年々少なくなってきていますが、状態の良い個体は過走行でも高値が付いています。セラのような、あっと驚くようなクルマの登場をこれからのトヨタに期待したいですね。それではまた、次回の記事でお会いしましょう!

[ライター/守屋健]

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