みなさん、こんにちは!今回のスポーツカー・ラボでは「スズキ・キャラ」をご紹介します。キャラ、と聞いてパッと姿を思い出せる方は、「平成のABCトリオ」の時代に胸を熱くした記憶をお持ちではないでしょうか。平成初期の傑作軽スポーツカー、マツダ・オートザムAZ-1、ホンダ・ビート、スズキ・カプチーノ。そのうちの一つ、マツダ・オートザムAZ-1の姉妹車として発売されていたのが、スズキ・キャラでした。
マツダ・オートザムAZ-1は販売に成功したとは言えず、わずか3年で生産を終了しましたが、それはスズキ・キャラも同様でした。キャラの生産台数はさらに輪をかけて少なく、現在では中古車市場でもほとんど見られない希少車となっています。今回は、AZ-1とキャラの相違点に触れつつ、この偉大な軽スポーツカーの魅力に迫っていきたいと思います!
キャラとAZ-1の相違点は?
出典元:ウィキメディア
先述した通り、スズキ・キャラはマツダ・オートザムAZ-1の姉妹車、というよりOEM車です。販売開始はAZ-1に遅れること3ヶ月後の1993年1月27日から、販売終了はAZ-1よりも9ヶ月先行して1995年3月まで、となっています。
生産台数については、マツダ・オートザムAZ-1の4,392台に対し、スズキ・キャラはわずか531台。販売期間中にはマイナーチェンジどころか、一部改良すら行われませんでした。また、AZ-1に用意されていた「マツダスピードバーション」や、スーパーウーハーなどのオプション装備を充実させた「TYPE L」などの特別仕様車も存在せず、純粋にモノグレードのみの販売となっています。
マツダ・オートザムAZ-1とスズキ・キャラの相違点はごくわずかで、外観上はロゴの変更と、AZ-1ではオプションとされていたフォグランプの標準装備化くらいしかありません。インテリアでも、ロゴの変更と、追加されたフォグランプのスイッチ部のみ。
細かいところで言えば、寒冷地仕様の設定なし、フェンダーミラーとABSの設定なしと、オプション設定に関して言えばAZ-1よりもさらに簡略化されています。車両価格については、フォグランプを標準装備とした分、キャラの方が少し高めに設定されていました。(マツダ・オートザムAZ-1は149.8〜万円、スズキ・キャラは151.3〜万円)
スズキ・キャラの販売の経緯としては、マツダ・オートザムAZ-1のエンジンをスズキが供給していた、さらに前に辿ると、マツダのキャロルにスズキ製のエンジンを供給していたという繋がりがあります。誤解されがちな点ですが、AZ-1の設計・開発にスズキは全く関わっていません。
上記のようなクルマの成り立ちから、マツダ・オートザムAZ-1用のアフターパーツや内部部品はほぼ全て転用可能です。AZ-1のアフターパーツ類はかなり充実しているので、いじって遊ぶ楽しみは十分に残されていると言えるでしょう。
軽自動車初のガルウイングドアを採用
ここからは、スズキ・キャラの特異なパッケージングについて紹介していきましょう。この先は、AZ-1とキャラ、共通の内容となります。
スズキ・キャラの外観を見てみましょう。全長3,295mm、全幅1,395mm、そして驚きの全高1,150mmと非常にコンパクトなボディに、ミッドシップエンジン、ガルウイングドアという構成になっています。車重もかなり軽量で、エアコンが標準装備されているにも関わらず、わずか720kgに収められています。
この車重を実現できたのは、独特のボディ構造のおかげです。ペリメーター型フレームをメイン部材とし、「スケルトンモノコック」と呼ばれる特殊な構造を採用。外装パネルには応力を負担させていないため、軽量なFRPを貼り付けるという、まるでレーシングカーのような凝った構造となっています。外装のFRPは取り外しが簡単で、アフターパーツとの外装張替えも行えたことから「1/1プラモデル」と呼ばれたことも…。
この構造を採用したおかげで、市販車としては驚異的な低い全高を実現したものの、サイドシルが高くなってしまい、通常のドアでは乗り降りが困難になってしまいました。
その対策として採用されたのがガルウイングドア。上方のガラスには光の透過率を下げるセラミック加工が施されているとは言うものの、エアコンの効きが優れているわけではなく、窓の開口部の小ささも相まって、夏場の暑さは相当に覚悟しなければなりません。
アルトワークスの心臓部を搭載
ミッドシップに搭載されたのは、スズキ製のF6A型3気筒DOHCインタークーラー付きターボエンジン。アルトワークスやカプチーノに採用されていたエンジンと同じもので、出力は自主規制枠いっぱいの64psを発生します。
しかし、エンジンのポテンシャルはそれ以上で、CPUの交換だけで80ps以上を軽々とマークするなど、当時のジムカーナやラリーでは「最強」の呼び名も高い軽自動車用エンジンでした。ラリー競技の影響もあり、アルトワークス用エンジンのアフターパーツの充実度はかなりのもの。こちらも、いじって遊ぶ余地が多く残されています。
ステアリングには関しては、パワーステアリングなし、ロックトゥロックは2.2回転、という超が付くほど硬派な仕様。前後の重量バランスは44対56と、ミッドシップらしい数値を実現し、高剛性シャシーとFRPによる軽量な外装も手伝って、上級者になればなるほど「カミソリのような鋭いハンドリング」を体験することが可能です。しっかりと前後の荷重を意識して運転できる方にとって、これほど楽しいクルマは存在しないでしょう。
また、非常に軽量なので、ターボエンジン搭載の軽自動車の中では燃費が抜群に良いことも特徴でした。あるデータによれば、平均で17km/L前後、場合によっては20km/Lも超える場合もあるとのこと。ガンガン運転して楽しみたい方にとっては、最高の相棒となりそうです。
キャラが抱えるデメリット
一方で、割り切りによる欠点も数多くあるのもこのクルマならではと言えるでしょう。2人しか乗れないのは良いとして、荷物が全く積めない。ハンドリング重視のセッティングのため直進安定性に欠け、長距離の運転には全く向かない。
シートはバケットタイプでリクライニングせず、助手席にはスライド機構すら付いていない、ABS、エアバッグ、キーレスエントリー、CDプレーヤーなどは標準で装備されない。
180cm以上の身長の人はドライビングポジションが窮屈。5速MTしか存在せず、しかもクラッチは重く、シフトフィーリングもあまり良くない。
ガルウイングドアのダンパーが年々ヘタってきて、ドアが次第に持ち上げにくくなる。
そして、エンジン音がうるさい。60km/hを超えるとラジオの聞き取りは難しくなり、80km/hを超えると会話は困難、などなど。
最も大きなデメリットは、横転事故やスピン事故が多発した、という点でしょうか。リアサスペンションの設計上、コーナリング時のジオメトリーの変化が大きいという点がひとつ。本来低重心を実現するためのミッドシップレイアウトを採用したにも関わらず、軽自動車枠に収めるため相対的に高くなってしまった重心位置、というのがもうひとつ。
このふたつの相乗効果で、しっかりフロントに荷重を乗せたり、きちんと減速しないままステアリングを不用意に切ったりするとすぐにスピン・横転してしまうという、非常に過激なセッティングとなっていました。
とにかく運転が楽しい!
それでも、非常に低い視点が生み出す、40km/hで走っても楽しい!という感覚や、電子制御など何も付いてないことが生むピュアでダイレクトなドライブフィール、異常なほどクイックな切れ味鋭いハンドリング、そしてガルウイングドアに代表される独特のスタイングは、一度ハマってしまうと抜けられない魔力を秘めていると言っても過言ではありません。多くの人々が、今もその魅力の虜になっていると言えるでしょう。
その証拠に、スズキ・キャラ、マツダ・オートザムAZ-1ともに、中古車市場では平均価格が新車時の価格を上回る、160万円前後で取引されています。こんなクルマが世の中に出てくることはありえない、と多くの人々が思っているからでしょうか。
交換部品の入手の困難さなど、実際の購入時にはさまざな問題がありますが、それを乗り越えてでも運転してみたい…そう思わせる魅力がこのクルマには存在します。これからも、多く熱烈なファンに支えられて、できるかぎり多くのスズキ・キャラが残っていくことを祈るばかりです。それでは、また次回の記事でお会いしましょう!
[ライター/守屋健]