みなさん、こんにちは!今回は、日産がかつて販売し、1代限りで生産を終えてしまった小型スペシャルティクーペ、NXをご紹介します。当時の日産と言えば、S13型シルビアに代表されるような、直線基調の男性的なエクステリアが主流でしたが、NXクーペはその中にあって曲線を多用した、丸みのある可愛いデザインを特徴としていました。
女性も気軽に運転できる小型パーソナルクーペ、という点では、同時期のトヨタ・サイノスなども同様のコンセプトで登場したものの、サイノスと同じくNXクーペも販売は苦戦。後継車が登場すいることもなく、短期間で姿を消してしまいました。今回はそんなNXクーペを改めて紹介していきたいと思います!
サニーRZ-1の事実上の後継車として
出典元:ウィキメディア
NXクーペの登場以前、日産のクーペモデルのボトムを担うモデルは、サニーをベースにした2ドアクーペ、サニーRZ-1でした。サニーRZ-1は、かなりエッジの効いたシャープなエクステリアデザインが特徴で、見方によってはいかつい印象を与えるほど、男性的で筋肉質なスタイリングをまとっていました。
日本では、NXクーペはこのサニーRZ-1の事実上の後継車として登場。1990年1月から販売が始まります。もともとは北米市場をメインターゲットとして企画され、女性秘書が颯爽と駆る小型クーペ、いわゆる「セレクタリーカー」としてデザインされています。そんな女性的なイメージを持たせたかったからなのか、直線的でエッジーだったサニーRZ-1からは一点、丸みを帯びた可愛らしいデザインとなっています。
全体的なボディスタイルは、オーソドックスな3ドアハッチバッククーペで、リアからの眺めは特に個性的なところはありませんが、NXクーペで何と言っても印象的なのは、フロントからの「細くつぶれた楕円形の、へこんだヘッドライト」でしょう。当時リアルタイムで見かけた筆者も「これはかっこいいのか?かわいいのか?」と判断に困った記憶があります。この個性的なエクステリアは、アメリカはカリフォルニア州サンディエゴにある「日産デザインインターナショナル」でデザインされました。
日本での販売は不振
発売後、メインターゲットだった北米では「安価なパーソナルクーペ」として好調な販売を記録。北米ではエンジンの排気量に合わせ、「NX1600」「NX2000」のネーミングで呼ばれました。他にもヨーロッパやオーストラリア、オセアニア圏でも販売され、それぞれ「100NX」「NX」「NXクーペ」の車名で売られました。
ところが、日本での販売成績と言えば全く奮いませんでした。当時の日本の若者は、より高性能の硬派なスポーツ志向の強いクルマを求めていたため、穏やかな性格で気軽に乗れるNXクーペのようなクルマには見向きもしなかったのです。クルマ自体に大きな欠点は存在しなかったものの、売れ行きが芳しくないこともあって、1994年には5月には販売を終了。マイナーチェンジ1回、フルモデルチェンジなし。わずか4年で生産を完了し、日産のカタログからひっそりと姿を消してしまいます。なお、NXクーペの担っていた役割は、ルキノクーペが引き継いでいくことになります。
塗装にこだわりあり
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NXクーペのベースになったモデルは、同時期に生産されていたサニーの7代目モデル(B13型)で、メカニズムのほとんどを流用することで、安価に販売できるようコストを抑える努力がされています。前後のサスペンションはシンプルなストラット式で、これもそのまま流用されていますが、サニーに比べて低められた車高や重心に合わせて、再度セッティングし直されていました。
搭載されていたトランスミッションは、シンプルに5速マニュアルと4速オートマチックの2種類で、特筆すべき点は特にありません。こちらもそのままサニーから流用されています。フロントに置かれるエンジンは全て横置きの直列4気筒で、サニーと同じくフロントを駆動するFFでした。FRでなかった、という点も、走り好きに振り向いてもらえなかった原因かもしれませんね。
エンジンの排気量は、日本仕様では当初1.5リッター、1.6リッター、1.8リッターの3種類がラインナップ。それぞれタイプA、タイプB、タイプSと名付けられ、3グレード構成となっていました。1992年にはマイナーチェンジが行われ、グレード構成はタイプA/B(1.5リッター)、タイプS(1.6リッター/1.8リッター)の2グレードに整理されます。
アメリカでは、よりトルクフルなエンジンを求める声が大きいためか、2リッターエンジン搭載車もラインナップされていました。
NXクーペと言えば、当時のテレビコマーシャルを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。CGを駆使した、イエローのNXクーペが登場するコマーシャルのキャッチコピーは「タイムマシンかもしれない」。結局、生産は長く続かなかったものの、今見てもあまり古さを感じない個性的なデザインは、たしかにタイムマシンと呼んでいいのかもしれませんね。
日本仕様のボディカラーは、おしゃれで可愛いクルマというコンセプトのあったためか、全部で8色が用意されるという気合の入れよう。しかし、先述のコマーシャルの影響もあってか、販売されたクルマの多くはイメージカラーのイエローでした。また、オプション装備でスーパー・ファインコート塗装(フッ素樹脂塗装)を選択することもできた点を見ると、塗装に関するこだわりは相当なものだったと言えるでしょう。
購入時にはパーツ調達に注意
4年という短いモデルライフでしたが、その間に1回行われたマイナーチェンジでは、先述したグレード構成の整理の他にも、細かい改良が加えられています。具体的には、運転席エアバッグをオプション設定とし、シートベルト未装着警告警報、サイドドアビーム、衝撃吸収パッドなどが追加。外観上では、ボディサイドモールがボディ同色塗装なり、よりモダンな印象となりました。
生産終了からすでに25年が経過し、かつもともとの流通量が少ない、ということもあり、日本国内の中古車市場ではすっかり珍車・迷車扱いされています。2019年6月現在の国内流通量はわずかに2台。プレミア価格がついているわけでもなく、購入金額はそれほど高くはないですが、いざ買おう!となった時にチェックしておきたいのが、交換部品のストックや入手方法です。
この年代の国産車のパーツ供給事情はかなり悪く、欲しいパーツが手に入らない→車検に通せない→廃車になった、という話も珍しくありません。購入の際は、ショップで働く方とのコミュニケーションを密にして、部品の調達や今後のメンテナンスについては実際にどうすればいいのか?ということをじっくり相談してみてくださいね!
今こそこんなパーソナルクーペがほしい
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かつて軟派だ、と揶揄された、日産・NXクーペのような、セダンベースの小型パーソナルクーペたち。しかし今考えれば、別に優れた性能を持っていなくても、安価に購入できて、毎朝見かけるだけで楽しくなるようなそんなクーペがあってもいいですし、そうしたクルマが日本で人気を集められたかったのは非常に残念なことだったと感じます。現在の日本では、ファミリーカーに設定されたスポーティなグレードと、本格的なスポーツカーの間を埋めるクルマがほとんど存在していましせん。
スポーツカーとして、専用設計のエンジンやシャシーにこだわるのは決して悪いことではありませんが、結果としてクルマはどんどん高価になり、若者が頑張って買うモノからはほど遠くなってしまいました。今こそ、こうした「安価だけど、スタイリングが素敵で、夢を見られるクーペ」が登場したら面白いのに、と思わずにはいられません。
NXクーペのドアを開けると、ドア開口部のキャッチ部分に傘の収納スペースが備わっています。まるで超高級車であるロールス・ロイスのような装備が、こんなクルマに付いているということ自体、遊び心があって素敵だと思いませんか?それではまた、次回の記事でお会いしましょう!
[ライター/守屋健]